ひがのぼると読む「夢を紡ぐ」②
このシリーズは、ひがのぼるといっしょに「夢を紡ぐ」をもう一度、当時に想いを馳せながら読もうという企画です。
※「夢を紡ぐ」は、2002年4月から2004年9月に毎日新聞(京都/奈良版)に掲載された子ども館の実践報告を書籍化したもの
当時を振り返って。
「ヒト」の子は、「十人十色」の「個」を持つ動物である。とりわけ、思春期は「自分自身になるため」のかけがえのない貴重な時間だ。
子ども館がスタートした23年前は、学校に行くことを拒む子どもはおよそ13万人ほどだった。
今は約30万人近い子どもたちが「ノーサンキュー」を意思表示している。
「眼はは心の窓」という故事がある。次々にやってくる子どもたちに共通することは、気が付けば「眼に生気が蘇ってくる」ことである。
それは、子ども館のスタッフ一同に共通する「子ども賛歌」の一つである。まさしく、誇らしい『以って瞑す可し』日々である。
※以って瞑す可し(もってめいすべし) ここまでできれば、もう死んでもよい。転じて、それですべきであるという意味
ひが のぼる
自分の意志で決める 2002年5月11日号
5月2日の朝、両親と共に子ども館にやってきた中学3年のSは、子ども館に来るまではお腹が痛いと言っていたそうです。
ご両親と一緒に話を聞いていた夫が「どうする?」と尋ねると「私、今日は子ども館に居る」と言って即、入学の意思表示をした。その日は、Sと一緒に数学の教材を数学の先生と買いに行った。自分の学力に合う教材を買うために。途中、リスやモルモットなどお互いに飼っている動物の話で盛りあがったという。その後はT持参の稲の苗を二人で植えたりと楽しそうでした。
お弁当を持っていない彼女の歓迎パーティー用に夫が作った焼きうどん。Sのお弁当も分けあってみんなで食べたら美味しいね、と言われて作った夫も満足気。
やや遠い所からEは「奈良へ行くの、あの子に伝えなくていいの?」と聞く。「君から伝えてよ」という。
時間がかかったが以前に三人で決めた奈良への遠足のことです。納得して選んだことは責任感が生まれるだけでなく、自分たちで生活を創っていく喜びも生まれてきます。
どんなにもどかしくても子どもたち自身の意思で決めることをこれからも尊重しよう。私自身も人生の大きな岐路・結婚を周りの大反対を押し切って自分の意思で夫と一緒になったものです。
いろいろな困難に遭遇してきましたが後ろを振り向いたことはありません。どん底の時は発想の転換を図り、乗り越えました。二人の息子の進路について助言はしても、彼ら自身に決めさせてきました。
4月の入学から1ヵ月が過ぎて三人の子たちの個性が見えてきます。どの子も異なる優しさを持っています。
違いを認め合いながらも一人一人が方向を決めるのにかかる時間は違う。待つこと、自分自身で決めること両方を子どもと共に大切にしていきたい。
館長 ひが はるよ